シンガポールからアジア市場を俯瞰、
世界のエコシステムとつながる
都市国家シンガポールは、「狭い国土と自然資源の欠乏」という不利な条件を、逆転の発想で人材開発やイノベーション、アカデミアなどの発展に導き、それらの拠点を集約してきました。現在は世界有数のビジネス・金融のハブのみならず、確固としたスタートアップのエコシステムを構築しています。その一角を占める、世界的な名門大学、シンガポール国立大学(NUS)は、国を挙げての支援や潤沢な研究資金を背景に、充実した起業支援プログラムを四半世紀にわたり展開しています。その実績を活かし、NUSは日本で始動したGoing Abroad To Scale (GATS)イニシアティブの「事業化支援プログラム」の中核を担う予定です。NUSの起業支援プログラムに関わるKevin Leungさんと大場優さんに、NUSの実績とGATSの枠組みで提供する「Launch Asia」プログラムを中心に詳細を伺いました。
すべての起業支援を一気貫通で提供し、ユニコーン企業も創出
シンガポール国立大学(NUS)の起業支援プログラムと、具体的な実績をお聞かせください。
大場優:我々が所属するNUSエンタープライズは日本でいう「産学連携部門」で、1999年の設立から「イノベーションと事業化」の機能を担っています。技術移転や知的財産の管理、起業家教育プログラムの企画運営、スタートアップの創出・成長支援、投資や海外展開の支援など、多岐にわたる分野を担当しています。特徴は、このような支援を一気貫通で担っているところです。過去25年以上の間、4,000社ほどのスタートアップと関わり、その中から10社ほどのユニコーン級の企業を輩出しています。
Kevin Leung: 2018年からはGRIP(Graduate Research Innovation Program)というプログラムが始まり、技術の商品化に向けたシードマネーを提供しながら、科学者・研究者を起業家に育成する支援を行っています。今までに130弱のスタートアップがGRIPから生まれています。GRIPは昨年、国のプログラムに移行しています。
1対1のオンラインコーチングと、現地エコシステムとの人脈形成
「Lauch Asia」はどのようなプログラムですか。
大場:「Launch Asia」は、一般的な市場調査を行うのではなく、東南アジアでの実際のビジネス機会を拓くプログラムです。対象はディープテック全般の研究者で、これまでNUSが培ってきたスタートアップ創出の手法を活用しながら、1on1で東南アジアにおけるビジネスモデル深堀りやバリデーションのサポートを行います。 プログラム開始後の2-3か月は、日本や東南アジアにおけるProblem, Solution, Valueを明確にしたうえで、ビジネスモデルを含めた懸賞を実施します。 その後、参加者は1〜2週間ほどシンガポールを訪れ市場調査や講義ではない実際のビジネスミーティングを重ねることで、東南アジアにおけるビジネスの可能性を追求します。
シンガポールが提供するプログラムの優位性をお聞かせください
Leung: 日本企業のアジアの拠点は、シンガポールに集中しています。規制など、ビジネス環境が整い、安全な環境で会社を設立できるからです。また、シンガポールは近隣諸国と自由貿易協定を結んでおり、マレーシアやインドネシア、ベトナム、タイなど、世界でも急速に発展する経済へのアクセスが容易です。東アジアのみならず、とかく国によって状況がまったく違う東南アジアの市場を理解し、その可能性を探ることが起業家にとっても重要になってきます。
アジア人はお互いを理解し、協力し合えると考えていますので、我々のプログラムも、アジア文化に根ざしています。日本人の起業家は、世界のエコシステムやベンチャーキャピタルへのアクセスが不足していると聞いています。我々は、その橋渡しをすることができると思います。
グローバルスタートアップへの道を歩んでもらいたい
求める参加者像はどのようなものですか。
Leung: 研究者にビジネスの経験があるかどうかは不問です。「研究者がイノベーション、事業化の鍵を握る」ということを常に意識し、我々は起業への道を支援できるからです。最初は、必要な知識、人脈やマインドセットが不足していたとしても、その不足部分を補えるようにプログラムを設計しています。また、技術の商品化まで時間がかかり、リスクがあったとしても、その道筋を継続的に支援する用意があります。
参加を検討する科学者にメッセージをお願いします。
大場&Leung:参加者に我々のプログラムやエコシステムをフルに利用してもらいながら、日本、東南アジアの両市場を俯瞰する支援をしたいと思います。我々が今まで培ってきたツールや知識、ネットワークをしっかり提供しますので、ぜひ積極的に取り組み、グローバルスタートアップへの道を歩んでもらいたいと思います。
Kevin Leung
NUS Enterprise
NUSエンタープライズでGRIPの統括を担当。モバイルゲームとFacebookゲームの開発会社の設立(Smartrons: 2022年に2億ドルで売却)や、170万人以上のクリエーターを結びつけるプラットフォーム(Drawcrowd.com)の共同設立など、自身も起業家として豊富な経験を持つ。
大場 優
NUS Enterprise
NUSエンタープライズ日本ディレクター。日本と東南アジアの市場をつなぐスタートアップエコシステムの構築を主導する。NUSのスタートアップ支援機関「Block71」の日本の拠点を東京・名古屋に立ち上げ、日本と東南アジアのスタートアップの相互進出を支援する拠点の構築を目指す。